本日のブログは、スタッフIが美術展の鑑賞レポートをお届けします。

東京上野にある東京都美術館で、ジュアン・ミロのすべてが集う空前の大回顧展「ミロ展 Joan Miró」が2025年3月1日(土)〜7月6日(日)の日程で開催されていたので鑑賞してきました。

パブロ・ピカソとサルバドール・ダリとともに、20世紀スペインの三大巨匠の一人、ジュアン・ミロ。
本展は、90歳で亡くなるまで新たな表現に挑戦し続けたミロの、70年におよぶ創作活動全体を振り返ります。
日本でのミロの回顧展としては、存命中の画家自身が協力した1966年の展覧会に並ぶ、最大規模の回顧展です。

1940年 水彩、グアッシュ・厚い水彩用網目紙
第二次世界大戦の戦火を逃れながら、夜や音楽、星を着想源にして描かれた《星座》シリーズ全23作品のうち、3作品が集結。
現在、これらの作品は世界各地に分散しており、複数作品を同時に鑑賞できる機会は極めて稀少です。

また本展では、故郷カタルーニャで描かれた初期の名作《ヤシの木のある家》、1920年代の傑作《オランダの室内I》、

1973年 アクリル・カンヴァス
そして晩年期における新たな表現の集大成《焼かれたカンヴァス2》など、ミロの芸術的変遷を示す重要作品が世界中から集結。

厳選された傑作の数々を通して、ミロ芸術の真髄を体感できる空前の大回顧展です。
ミロ展(東京都美術館)鑑賞レポート

東京都美術館に到着したのは、平日火曜の朝9時15分。すでに20人くらいの人が列をなしていました。
ここ最近、暖かくなってきた時期ではありますが、この日の東京は雪予報。

早く到着しすぎたことを後悔しながら、10分ほど待ってようやく開門!

ミロの世界へ飛び込みます!

本展は、パリ(シュルレアリスム)→戦禍からの逃避→アメリカでの名声→晩年の挑戦という変遷をたどる全5章で構成されています。
- 若きミロ 芸術への決意
- モンロッチ-パリ 田園地帯から前衛の都へ
- 逃避と詩情 戦争の時代を背景に
- 夢のアトリエ 内省を重ねて新たな創造へ
- 絵画の本質へ向かって
1920s〜1930s:カタルーニャからパリへ シュルレアリスムの影響

1893年にスペインのカタルーニャ州に生まれ、同郷のピカソと並び20世紀を代表する巨匠に数えられるジュアン・ミロ(1893~1983)。
太陽や星、月といった自然のモチーフを象徴的な記号へと昇華させ、詩情豊かな独自の画風で描かれた作品は、日本でも高い人気を誇り、没後40年を迎えた現在、ミロの創作活動は世界的に再評価されています。

右《ヤシの木のある家》1918年 油彩・カンヴァス
そんなミロも、若かりし頃は故郷カタルーニャの地で、さまざまな画風を取り入れながら自己表現を模索していました。その後パリに出てからは、シュルレアリスムの芸術家たちと交流を深め、無地の画面に生き物が浮遊する「夢の絵画」などで頭角を現していきます。

ヘンドリック・ソルフのポストカード「リュートを弾く人」を基にしている《オランダの室内I》。
即興で描いたように見えますが、いくつかの準備素描を比較すると、被写体が変容しており、ミロの思考の過程を読み取ることができます。


Hendrik Martenszoon Sorgh, Public domain, via Wikimedia Commons
元絵と比べると、リュート奏者により注目していたり、奥行き感・遠近感が平坦な色彩と曲線で有機的なフォルムに置き換えられていたりするので、本作の横に掲示されている《リュートを弾く人》と比較しながら違いや発見を楽しむのも醍醐味です。

※2022年「ミロ展-日本を夢みて」にて撮影
「巴里 東京新興美術展覧会」で日本初展示されたミロ作品2点のうちの1つ、《焼けた森のなかの人物たちによる構成》。
その時の会場は東京府美術館、本展の会場でもある現在の東京都美術館であり、90年ぶりに同じ場所に帰ってきた歴史的な意義深さを感じさせる作品です。
ミロにとって「目」はすべてを見通すものであり、宇宙に問いを投げかけるものであるため、全作を通してさまざまな作品で繰り返し使いました。
手形も同様で、ミロの存在と不在の両方を暗示するもので、手を通して創造の時間と鑑賞の時間が対話を始めるようになるのです。
1930s〜1946:戦禍を逃れて
時代は大きく揺れ動き、1936年にスペイン内戦が、1939年に第二次世界大戦が勃発。

※2022年「ミロ展-日本を夢みて」にて撮影
反ファシズムの立場を貫いたミロにとって、戦争の暗い影が色濃く映し出されるようになり、それ以前の明るく夢のような作品とは異なり、より暗く、陰鬱な背景と怪物のような存在が現れるようになりました。


背景を覆い尽くす赤と青の大胆な色使い。
この鮮やかな色彩と躍動感のある表現は、戦時下の暗い現実とは対照的で、このコントラストが作品の緊張感を一層高めている気がします。

また、この時代に描かれた連作で「夜と星と音楽が着想源になった」とミロが語る、全23作もの星座シリーズ。
このシリーズにも「大きく口を開けた怪物」が共通しており、これらの存在も戦争の影響と言えるのかもしれません。
ミロは「このシリーズに没頭していると、戦争の悲劇を忘れられた」と語っています。環境による影響は大きいのか、戦後は太くてどっしりした線を描くようになったそうです。

星座シリーズは紙に描かれた繊細な重要作で、その脆弱性ゆえに貸し出しは滅多に許可されません。本展では、その貴重なシリーズの中から3作品が展示されています。
照明を抑えた静謐な展示空間で、戦時中のミロが詩情豊かに表現した星空の世界を追体験してみて下さい。
1940s〜1960s:アメリカでの名声

右《火花に引き寄せられる文字と数字(III)》1968年 アクリル・カンヴァス
1960年代には新しい世代のアメリカの芸術家たちから影響を受け、ますます大きなサイズの作品に取り組み、より体の動きをそのまま反映させるような筆使いをするようになっていきました。


そして美術の中心地となったアメリカで評価され、巨匠としての地位を確立していきます。

1967年 アクリル・カンヴァス
ミロは初来日する1966年よりもずっと以前から日本の詩や文学に興味を抱いていました。
本作の作品名はタイトルとしては長いが、西洋の詩としては短い、いわば俳句に通じるもの。物語として展開するのではなく、自然と人間が響き合う瞬間を表現する短い詩となっています。

慎重かつ緻密な計算のもと、長さの異なる黒い線と、大きさや濃淡が異なる色の斑点が組み合わされている《白地の歌》。
1940年代に残したメモによれば、こうしたモティーフは、「歌」の歌詞であり、視覚による「音」であるという。「私の作品が、画家によって音楽がつけられた時のようであってほしい」とミロは書いています。

日本に関心があったミロが初来日後に描いた作品《太陽の前の人物》。
日本の画僧・仙崖の禅画《◯△□》を彷彿させる本作は、戦禍で描いた作品に比べると太くどっしりとした線が伺えます。


このあたりの作品は岡本太郎を彷彿させる作品ですね。

左上から時計回りに、《マスク》1970、《マスク》1970、《マスク》1970、《顔の時計》 1967
情熱に満ちあふれた芸術への挑戦的姿勢という点において共通項が高そうです。
1970s:新たな挑戦




より大きな作品を描き、よりダイナミックな筆使いで新たな表現に挑戦し続けた晩年。

バケツやビンに入った絵具を激しくぶちまけ、絵具を塗ったボールを投げつけ、ほうきや塗装用のブラシを使って制作した三連画《花火 I、II、III》もそのひとつ。

1950年代半ばに、念願の大きなアトリエを手に入れたミロは、床に置いたカンヴァスに思い切り絵具を広げられるようになりました。

さらに、乾く前にカンヴァスを立てることで、したたり落ちた絵具の跡に重ねるように筆を入れています。こうした技法には、アメリカ抽象表現主義の若い画家たちからの影響が見てとれます。

白いカンヴァスに勢いよく絵具を垂らし、したたらせ、踏みつけ、ナイフで切り刻み、最後にガソリンを染みこませて火をつける…そんな5点の連作絵画のひとつ《焼かれたカンヴァス 2》。



この当時、ミロは80歳。
作品を破壊するかのように創り上げる型破りな手法をためらいなく取り入れ、この年齢になっても新たな表現を追求し続けます。
素材と絵画の限界を超えようとする精神は、1983年に90歳で亡くなる最晩年まで失うことはありませんでした。

土台となる布地を用意し、さまざまなオブジェを貼り付けた「スブラテシム」と呼ばれる一連の作品のひとつ。
この手工芸的な特徴が、本作を民芸品と結びつけており、ミロは手づくりの温かみや人間味を宿す民芸品を高く評価していました。
会場内は、一部写真撮影OK

基本的には写真撮影はできませんが、2階の展示室内(ポスター、第4章、第5章)のみ、写真撮影可能です。
ミロ展(東京都美術館)まとめ

世界的には有名でしたが、独裁政権が続いていたスペイン国内では目立つことのなかったミロも、


晩年には国民的画家となり、国の重要な仕事をいくつも手掛けました。

これは1974年に手掛けた、スペインの名門サッカークラブ「FCバルセロナ」の75周年記念ポスター。

抜群にカッコいい…
岡本太郎やアルフォンス・ミュシャ、ウィリアム・モリスなど、芸術性を追求するアーティストが、本気で商業デザインするときのカッコよさは、しびれるものがあります。

鑑賞前にチラシで見たときの感想とは裏腹に、、、実際に本物を目の前にすると…本展で「観れて良かった作品No.1」は、このポスターだった気がします。
グッズ化しやすいデザイン?が並ぶグッズ売り場


東京都美術館の特設グッズショップは、比較的ゆったりとした広さがあるので時間をかけて吟味できます。


ミロの配色やシンプルなデザインは、グッズ化に向いていますね。

いろんな食品ともコラボ?していました。
この記事を書いた人:スタッフI
ミロ展(東京都美術館)開催概要
■展覧会名
ミロ展 Joan Miró
■会場
東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)Googleマップ→
■会期
2025年3月1日(土)~7月6日(日)
■休室日
月曜日、5月7日(水)
※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開室
■開館時間
9:30~17:30、金曜日は20:00まで
■チケット料金
一般2,300円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,600円
- 前売券は2025年1月15日(水) 10:00〜2月28日(金) 23:59までの販売。
- 大学生・専門学校生は、3月1日(土)~16日(日)に限り無料。
- 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料。
- 18歳以下、高校生以下は無料。
- 18歳以下、高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものをご提示ください。
- 土日・祝日のみ日時指定予約が可能です。当日券も館内で販売します。ただしご来場時に販売予定枚数が完売している場合があります。また、混雑時にはご入場まで時間がかかる場合があります。
- 各種お手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)、18歳以下、高校生以下の方は、日時指定予約は不要です。
- 3月1日(土)~16日(日)は、大学生・専門学校生の方も日時指定予約は不要です。
■公式サイト
https://miro2025.exhibit.jp/
東京都美術館の過去展覧会
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