田舎の原風景に包まれる「モーリス・ユトリロ展」SOMPO美術館で初期から晩年作品まで約70点が展覧

本日のブログは、スタッフIが美術展の鑑賞レポートをお届けします。

SOMPO美術館の外観写真
SOMPO美術館

東京新宿にあるSOMPO美術館で、作品約70点とユトリロ協会から提供された資料を通して、その全貌に迫る「モーリス・ユトリロ展」が、2025年9月20日(土)〜12月14日(日)の日程で開催されていたので鑑賞してきました。

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

本展では、フランス国立近代美術館(ポンピドゥセンター)の協力のもと、《モンマニーの屋根》や《ラパン・アジル》を含む約70点の作品と、ユトリロ協会提供の貴重な資料を通して、その画業を紹介。

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

アルコール依存症の治療の一環として絵筆をとった「モンマニー時代」、白い壁の表情を追求した「白の時代」、そして色彩豊かな表現へと展開する「色彩の時代」。

それぞれの時代をたどりながら、ユトリロが愛した風景と、唯一無二の表現の魅力を感じることができる展覧会です。

■館内で写真撮影はできる?
本展は、館内での写真撮影OKです。

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目次

モーリス・ユトリロ展(SOMPO美術館)鑑賞レポート

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

20世紀初頭のパリの街並みを描いたことで知られる風景画家モーリス・ユトリロ(1883–1955)は、生まれ育ったモンマルトルや暮らした郊外の風景を数多くの油彩画に残しました。

一方で、母シュザンヌ・ヴァラドンとの複雑な関係や、幼い頃から苦しんだアルコール依存など、私生活は決して平穏なものではありませんでした。

そうした経験が重なり合い、ユトリロならではの静かで詩情あふれる世界観が生み出されていったのです。

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

波乱の人生を歩みながらも、彼は20世紀前半のパリ画壇を代表する画家として活躍し、現在も日本で高い人気を誇っています。

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

ユトリロの画業は、作風の変化から大きく3つの時代に分けられます。

モンマニー時代
アルコール依存症の治療の一環として絵画制作を始めた初期の時代。郊外の町モンマニー周辺を題材に、素朴で荒々しい筆致の風景画を多く描きました。

白の時代
ユトリロを代表する時期。白い壁や石造りの建物を厚塗りで表現し、パリの街並みに漂う静寂や孤独感を印象的に描き出しました。

色彩の時代
白を基調とした重厚な表現から変化し、明るく柔らかな色彩が増えた時代。風景描写にも軽やかさが加わり、装飾性や詩情がより豊かに表れるようになります。

本展も、ユトリロの様式展開を、この3つのゆるやかな年代順に沿ってたどっています。

モンマニー時代

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

ユトリロは、印象派の画家(ピサロやシスレー)の影響のもと、住まいのあったモンマニーの風景を描くことから画家として出発しました。

小高い場所から屋根の連なる風景と木々を描いた作品は、その後の作品を構成する自由な線と直線・色面からなる絵画の出発点をなしています。

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子
モーリス・ユトリロ《ヴィルタヌーズの城》
1908-1909年頃 油彩・厚紙
パリ・ポンピドゥセンター/国立近代美術館・産業創造センター

前景のベンチや柵、塀などが急速に後退し、建物が右に向かうにつれてわずかに一点へ集まるように描かれることで、画家の視覚体験を追体験させる有機的な奥行き空間が生まれています。

印象派的な筆触は部分的に認められるものの、全体の色調は暗く沈み、静まりかえった気だるさや、空虚な窓が示す寂寥感が強く漂う作品です。

白の時代

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子
《可愛い聖体拝受者、トルシー=アン=ヴァロワの教会(エヌ県)》
1912年頃 油彩・カンヴァス 八木ファインアート・コレクション

パリの街並みに目を向けた作家が、漆喰でできた壁の質感を巧みに表現した時代です。

より構成的な画面を志向し、さまざまな表情に満ちた白色の表現により、わずかにひびつき構図の街並みのなかにリアルな質感をもたらすことで、画家としての名声を高めました。

モンマルトルのキャバレー「ラパン・アジル」は、ユトリロが生涯にわたり300点以上を描いた代表的モチーフの一つで、本作は絵葉書をもとに同一構図で制作された初期作にあたります。

下敷きとなった絵葉書では、小道が消失点に向かって消えていくのを確認できるが、ユトリロの《ラパン・アジル》では、

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子
《マルカデ通り》
1909年 油彩・カンヴァス 名古屋市美術館

「白の時代」に制作された《マルカデ通り》同様、消失点付近で奥行き方向の線が突如向きを変え、斜めに逸れているのです。

こうした遠近表現の操作によって、奥へ抜けいくはずの小道が外の世界へ広がっていかず、街並みはどこか閉ざされた空間として感じられます。その結果、ユトリロ作品にしばしば見られる、「隔絶された孤独の感覚」がユトリロの巧みな構成によって意図的に生み出されていることが明白に。

異なる時期に描いた同じモチーフ作品を比較すると、構図や色調、筆致の変化から、風景を再解釈しながら表現を深めていった過程が浮かび上がります。

色彩の時代

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子
《シャラント県アングレム、サン=ピエール大聖堂》
1935年 油彩/カンヴァス 公益財団法人ひろしま美術館

ユトリロは街並みの写真を参照しながら、定規やコンパスを使って下描きをし、この時代は彩度の高い色彩を選び制作をしていました。

これらの作品群からは、現実の風景を描きながらも、その現実から距離をとり、絵画の空間が抽象化、記号化する様子を見て取ることができます。

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子
《雪のヴェジネ、聖ポリーヌ教会》
1938年 グワッシュ・紙 個人蔵
SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

通りを歩く人物像は、画業後半にしばしば登場する、ほとんど記号化された添景モチーフだそうです。

また本来、風景画を得意としていたユトリロは、人物や静物を描くことがほとんどありませんでした。

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子
《クリスマスの花》
1941 グワッシュ・紙 個人蔵

のちに妻となるリュシーと親しく交流するようになった1920年頃から花の絵を手がけるようになったそうです。

ユトリロは親しい人へ花の絵を贈ることが多く、なかでも花瓶に生けた花束を描いた作品は、結婚前からリュシーへたびたび贈られていたと言われています。

色彩を取り入れたり、人をモチーフとして描いたり、花の絵を手がけるようになったり――。画業後半になるにつれて、これまで風景を「隔絶された孤独」の中にとどまらせてきた絵(あるいはユトリロ自身)に、“温度”のようなものを求めるようになったのでしょうか。

一方で、《ラパン・アジル》のように、歴を重ねてきた画業後半においても、同じモチーフ作品を比較させることで、構図や色調、筆致の変化から、風景を再解釈しながら表現を深めていこうとする、晩年における研鑽の一端だったようにも感じられます。

フランスの田舎風景は、日本でいえば田んぼや畦道のある原風景にもどこか通じるものがあります。田舎育ちの自分にとって、こうした景色は国を超えて郷愁を誘う存在です。ユトリロの絵を眺めながら、ふと宮崎の田舎を思い出すのは、そういう共通項なのかもしれません。

そしてSOMPO美術館での美術展と言えば恒例、順路の最後に展示されている、

SOMPO美術館で開催されたモーリス・ユトリロ展の会場の様子

ゴッホの《ひまわり》。
いつ見ても荘厳な存在感があります。




モーリス・ユトリロ展(SOMPO美術館)開催概要

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